武蔵野美術大学有志は、共謀罪(テロ等準備罪) の採決強行に抗議します


解説:「共謀罪」の本質と副作用をめぐって

志田陽子(武蔵野美術大学 憲法学)

※これは6月4日に9条の会・小平で行なわれた講演で使用したレジュメの改訂版です。

 

 

1 報道による時事の整理

 

▽自民党HPでは・・・

「組織的犯罪処罰法改正案」が23日、衆院本会議で可決。同改正案は、国際組織犯罪防止条約締結のための国内法の整備としてテロ等準備罪の新設を柱とする内容。テロを含む組織犯罪を未然に防止し、そのための国際協力を促進するための国際組織犯罪防止条約の締結は急務と主張。

 

法務委員会の審議では、次の点を明確化。

・犯罪の計画行為だけでは処罰されず、実行準備行為があって初めて処罰の対象になる

・テロ等準備罪については一般の人が処罰の対象にならない

自民党サイト  平成29523日 掲載記事 要旨抜粋

(補足)ここで言われている国際条約は、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)。

 

▽その他の報道では

「テロ等準備罪」の法案についての採決が5月23日に衆議院で行われ、参議院で審議中。参議院では6月中旬に採決される予定。この法律が施行されると、____が捜査・処罰の対象となる。

☆この____に入るものについて、不明な部分が多い。テロリスト的あるいは犯罪的な活動の準備または実現に関与する集団(およびそこに所属している個人)が捜査・処罰の対象となる、というとき、どこまでが対象となるのか。判断社は誰か

 

(以下はル・モンド誌527日記事要旨(友人の仮訳を参考に))

日本政府はきわめて問題の多い法律的な利器を準備している。安倍首相は、2020年の東京五輪に向かってテロリズムとの闘いの枠組みを作りあげることは自分の「責任」だと明言。この法案を通すことは、2000年に国連で採択された国際的な組織犯罪に対する協定の批准のために不可欠とも。しかし日本はでは、2002年以降犯罪発生率は減り続けている。法案の採否について国論は二分されており、法案の説明に対しては不満が高まっている。多くの専門家は、現行の法律で国連の協定批准には十分であるとしている。また、この法律が反政府的な活動にかかわる市民に対する恣意的な監視を合法化するという隠された目的を持っていることを懸念する指摘も多い。

 

(その他の記事から、指摘されている問題点を抽出

法案には訴追できる277の犯罪リストが含まれているが。 その多くは知的財産権侵害、許可なしの競艇参加、国有林での植物伐採など、テロリズムとの関係が不明なもの。(金田法務大臣は地図と双眼鏡を携行して公園を訪れた人間も容疑者となりうると)。

 

治安維持法(1925年制定)との類似性の指摘も。 治安維持法採択の前にも政府は、この法律は共産主義者だけを対象にするもので一般市民は無関係だと説明していた。しかし1940年代には全国民に対して厳格な監視が行われ、国家の軍国主義化に反対する人々を沈黙させるために運用されていった。

 

国際社会(国連)でも懸念が。 この件では、5月18日に、国連特別報告者で「プライバシー権」担当のジョセフ・ケナタッチ氏が、「プライバシーや表現の自由を制約するおそれがある」として懸念を表明する書簡を安倍晋三首相あてに送った。書簡の内容は

・「『計画』と『準備行動』の定義が曖昧であるため、法案が恣意的に適用されるリスクがある。

・「テロリズムとも犯罪ともいかなる関係も見られない」犯罪のリストが含まれていること。

・「プライバシーと表現の自由の保護に対する不適切な抑圧」のリスク。

日本政府はすぐに「抗議」。22日、菅官房長官「まったく不適切であり、われわれは厳重に抗議する」。さらに「特別報告者という立場は独立した個人の資格で人権状況の調査報告を行う立場であり、国連の立場を反映するものではない」と強調。「プライバシーの権利や表現の自由などを不当に制約する恣意的運用がなされるということはまったく当たらない」。 一方、国連側は、「事務総長は首相に、特別報告者は国連人権理事会に直接報告をする独立した専門家であると説明した」とのリリースを発表している。

日本は昨年から、国連人権理事会の理事国選挙に当選し、人権理事国となっているのだが

 

国連「立法ガイド」執筆者の見解

法案(組織的犯罪処罰法改正案)は、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)締結のために必要と説明されている。これについて国連の「立法ガイド」の執筆者ニコス・パッサス教授(米ノースイースタン大)が「テロ対策は条約の目的ではない」と明言。条約の目的について「テロ対策」を強調する日本政府とは異なる見解。(朝日新聞)

 

 

2 「共謀罪」または「テロ等準備罪」法案をめぐる議論の整理:本質に関する議論と、副作用に関する議論

 

A.「テロリズムと組織犯罪を防止するため」という目的は正当か? ⇒ ほとんどの人がYES

B.この法律の内容は、この目的に噛み合っているか        ⇒ YesNoが分かれる

C.この法律が、政府や警察によって恣意的に運用される危険はないか

目的外の部分(とくに表現の自由や内心の自由)にまで運用が拡大しないか)

D.上記の不安から、一般市民の表現の自由が萎縮しないか 

 

今、行われている議論は

政府見解 「法律(案)の内容は、上記の目的のためのもので、必要な規制に絞られている」

 ⇒不必要な部分への運用拡大は杞憂(市民が萎縮する必要はない)

 

これに対する批判

A 最初から上記の目的は「口実」にすぎず、真の目的は別のところに?(本質の議論)

B 上記の目的をもって策定されているにしても、結果的に内容が目的に噛み合わない。

    目的と合わない規制は、憲法上の権利を制約する正当性がない、不要な規制。

C 目的のために必要な規制だとしても、不必要な部分への運用拡大の懸念がある。

(副作用の議論。←→「警察を信頼しよう」)

CD この法律は目的とは別に、警察に市民活動への広汎な監視・介入の権限を与えてしまう。

(副作用の議論。実際に逮捕者が出なくても、市民生活を変えてしまう可能性が)

 

スノーデン氏の指摘62日に東京新聞、報道ステーションに公開されたインタビュー)

日本の共謀罪法案については 

「(法案に)懸念を表明した国連特別報告者に同意する。法案がなぜ必要なのか、明確な根拠が示されていない。新たな監視方法を公認することになる」「日本にこれまで存在していなかった監視文化が日常のものになる」

国家と市民の関係は変わるか。 

「民主主義において、国家と市民は本来一体であるべきだ。だが、監視社会は政府と一般人との力関係を、支配者と家臣のような関係に近づける。これは危険だ」

「(対テロ戦争後にアメリカで成立した)愛国者法の説明で、米政府は現在の日本政府と同じことを言った。『これは一般人を対象にしていない。テロリストを見つけ出すためだ』と。だが法成立後、米政府はこの愛国者法を米国内だけでなく世界中の通話記録収集などに活用した」

 

 ▽立法事実(その法律を必要とする事実)について疑義が。国連「立法ガイド」執筆者の「テロ対策は、条約の目的ではない」との発言、スノーデン氏の「私たちは、この種の監視が効果的ではなく、機能もせず、命も救わないと知っている」との発言はともに、立法事実にダイレクトに切り込む、プロの指摘。

 

D この法律があることで市民が萎縮する

(副作用の議論。仮に警察による恣意的な拡大はないとしても法律が生む心理効果)

 

☆この問題は、立法者は意図していない「副作用」として論じるべきか、それとも立法者の真の意図つまり「本質」の問題として論じるべきなのだろうか。⇒少なくとも「必ず生じる副作用」として立法者に忠告することは必要。

 

 

ただいま検討中・・・

Bの「規制内容」を見ると、Aの「目的」が真実の目的かどうか疑わしく、「規制内容」から推理される「別の目的」があるとの疑念が湧くのは自然なことではないか。その疑念を晴らすことが立法者の側の責任。晴らせないならば、《違憲の疑念》のほうが優先する。

 国連特別報告者の質問書など、海外の有識者の指摘は真剣に受け止めるべき

⇒法案提出側の説明責任はまだ尽くされていない

 

・「表現の自由」などが関わってくる場合:

「表現の自由」など、とくに重大で優越する権利について、権利侵害(違憲)の疑いが提起された時には、違憲ではないことを立証する責任は規制する側(政府側)にある(憲法裁判になったときの説明責任は厳格なものになる) ⇒ 立法時の説明責任も、厳格なものとなるべき。

 

・「法の適正手続」の問題

警察が人権にかなう適正な法の執行をするべき機関なのは確かだが、それが守られているかどうかをチェックする姿勢も国民には必要。権力への懐疑と監視の姿勢を国民が持つのは、健全なこと。したがって、恣意的な運用を許すような穴や曖昧さのある法律は、その穴や曖昧さを問いただしていく必要が。

「松川事件」(1963年 最高裁判決)の反省が必要。列車転覆事件で

 

参考エピソード:市民運動が監視や制圧の対象となった事例(新聞報道より)

2013年の大垣警察市民監視事件。市内に風力発電機が16基設置されることについて市民が勉強会を開いた。これに対して大垣県警は、集会参会者やその周辺の者の個人情報を調査し、「平穏な大垣市を維持したいので協力をお願いする」として電力会社子会社に個人情報を提供。公安委員会や警察庁警備局長は、公共の安全と秩序の維持という責務を果たす上で、通常行っている警察業務の一環と弁明。共謀罪成立後には、威力業務妨害罪の共謀として扱われた可能性もある。

 

・沖縄で市民運動への警察介入。昨年から今年にかけては、基地建設の反対リーダーを、器物損壊罪で逮捕、公務執行妨害・通行妨害で再逮捕して勾留し続けた。こうした実例があるために、テロ等準備罪規定がこうした市民活動に対して、さらに先回りして抑え込むために適用されるのでは、との懸念が払しょくできないのは、自然な理路ではないか。

 

・2014年と16年に、長崎県が県営ダム建設に反対する住民を通行妨害で訴えた例も。

ダム事業で県が13世帯の家屋と田畑を強制収用へ。住民らは手続に対し、事業には強制収用するほどの公益性はないと提訴し、測量の強行を阻む座り込み活動を継続。県は2014年、住民らへの「通行妨害禁止仮処分命令」を裁判所に申し立て、そのうち16人が妨害禁止を命じられた。その後も座り込みを続けた住民らを、2016年、県は再び訴えている。

 

・日本では、もともと公共事業による環境(自然環境、住環境、地域環境)破壊や生活破壊を訴える訴権は不十分で、それらを守ろうと望む住民の権利を守る制度は貧弱。その中で声を挙げるには座り込みなどの手段しかないことになるが、この法律は、この種の市民活動を今よりも初期段階から抑え込むことを警察に許可する根拠規定として使用されるのでは、との懸念もある。

 

仮にこれらの懸念を「杞憂」と言うのであれば、このような懸念が起きないような人権状況改善(とくに政治的意見表明の権利や「裁判を受ける権利」の保障の改善)を行うことが先決だろう。  (以上

 

 


シンポジウムの動画公開しました。

 

シンポジウム『天文学者と語り合う平和 戦争と大学、そして憲法』

 https://youtu.be/8Q1mbWEvh5k

 

http://www.kokuchpro.com/event/nowar/

シンポジウム

天文学者と語りあう平和 ―戦争と大学、そして憲法―

開催概要
日時:2016年 6月23日(木)19:00-21:00(開場 18:30)
会場:武蔵野スイングホール(東京都武蔵野市境2丁目14-1)
   アクセス JR中央線・武蔵境駅北口下車 西へ徒歩2分
参加方法:事前の参加お申し込みは不要です。直接会場へお越しください。
その他 :参加無料。多くの皆さんのご来場をお待ちしています!

  • プログラム
    プロローグ:4次元デジタル宇宙ビューアー「Mitaka」で宇宙旅行
    あいさつ:海部宣男 国立天文台名誉教授・天文学
  • 講演
  • 講演1:
    科学が戦争に動員される! ―安全保障法と軍学共同―
    講師/池内 了 (いけうち さとる) 名古屋大学名誉教授・宇宙物理学
     安全保障法が強行採決されましたが、安倍内閣の軍事化路線は、科学の軍事動員と武器輸出を促進させる方向に突き進んでいます。これを阻止するため、研究者と市民が力を合わせ運動を起こしましょう。
  • 講演2:
    立憲主義と《良心》 ―安全保障法、市民の幸福追求と学究者の責任、そして言論の自由
    講師/志田陽子 (しだ ようこ) 武蔵野美術大学教授・法学(憲法)
     安全保障法の採決以来、現内閣は、多くの市民と学究者の《良心》を切り捨てて、日本が採らないと決めたはずのレールの上を走り出したようです。この流れは安全保障法制の内容だけでなく、これについて考え議論をする人々の精神的自由を抑え込みながら進行しています。一人一人が、思考停止に陥らないために、憲法の基礎を確認しましょう。
  • パネルディスカッション
     講師、天文学者、市民の皆さんと、軍事研究や平和、憲法について語りあいましょう。

主催

 「天文学者と語り合う平和」シンポジウム実行委員会

共催

 安全保障関連法に反対する国立天文台関係者有志の会

 安全保障関連法に反対する学者の会

 安全保障関連法案に反対する武蔵野美術大学有志の会

協力

 平和と自由のための青山学院大学有志の会

 慶應義塾有志の会

 国際基督教大学教職員有志

 立憲デモクラシーと平和を考える上智有志の会

 安全保障関連法に反対する成蹊学園有志の会

 安全保障関連法に反対する創価大学・創価女子短期大学関係者有志の会

 安保法制関連法の廃止を求める拓殖大学有志の会

 安全保障関連法に反対する中央学院大学有志の会

 中央大学有志の会

 安全保障関連法に反対する電気通信大学有志の会

 東京外国語大学 「安保関連法」に反対する大学関連者有志の会

 安保法制に反対する東京学芸大学有志の会

 安保法制に反対する東京経済大学有志

 自由と平和のための東京藝術大学有志の会

 「安全保障関連法案」に反対する東京農工大学有志

 理性と良心を守る東京理科大学人の会

 安保関連法制の廃止を求める日本大学関係者の会

 安全保障関連法案に反対する明治学院有志

 オール明治の会

 安全保障関連法に反対する立教人の会

 安全保障関連法制の廃止を求める早稲田大学有志の会

 


安全保障関連法案に反対する武蔵野美術大学有志

声明


私たちは、人間にとっての真の自由と生存とは何かを、さまざまな立場から芸術・表現・文化に関わる者として、常に考えています。

 

人間一人一人が真に生きるに値する生を生きるには、地上にあるさまざまな惨禍が繰り返されることのないよう努力を重ねていかなくてはなりません。それらが達成されたところに《平和》が実現し、《真の人間的自由》への探求も可能になると考えます

 

日本は、武力による威嚇やその行使よって他者を制圧する行動には手を染めない、という思想を国家存立の基盤として守ることを誓い70年前に、この国を新しい国として再出発させました。

 

世界に向けて打ち立てられたこの理想は、実際にはまだ課題の山積する、不完全な達成でしかありません。

その達成を不完全なまま放棄するのか、不断の努力を続けて達成に近づこうとするのか。

日本と、その日本国に暮らす私たちは、今、その岐路に立っています。

 

私たちは、この岐路に立って、以下のように考えます。

 

私たちは、「専制と隷従、圧迫と偏狭」を克服しようと努力している国際社会の中で、真に名誉ある一員であるためには何が必要であるのかを、問い続けることが必要と考えます。

 

そして、私たちは、各人の良心に照らして耐え難いと思われる出来事が地上のどこかにあれば、私たち自身の無知と無関心がそれらを引き起こすことのないよう強く願い、表現者として何ができるのかを考え続け、自らの行動へ反映させていきます。

 

私たちは、そのために、警鐘の声を上げるべき時もあると考えています。

 

この課題に照らして、この国の将来を手渡すべき人々のことを思うとき、私たちは少なくとも、2015515日国会提出の一連の安全保障法制案には支持できない内容が含まれていると考えます。

 

とりわけ第二次世界大戦中には、日本およびその他の国々で多くの表現者がその表現を禁圧され、またはその表現力が良心に反する形で利用されました。

また多くの学術研究者が、その研究・教授の活動を禁圧され、またはその良心に反する協力を強いられました。

 

多くの表現者、研究者、職員が集まる武蔵野美術大学には、このような痛恨の歴史を二度と繰り返してはならないとの思いを持つ有志の人々が存在します。

 

私たち有志は尊厳をもって生きる一人一人の人間が国家によって消尽させられるとのないように願い、私たちにとっての真の平和的生存、生命・自由・幸福追求、そして平等のあり方を、問いかけ続けたいと思います。

 

武蔵野美術大学有志の会は、自由と良心のために、各人の自由と良心にもとづいて、これを表明します。

 

有志一同

 


本会は、各人の自由意志参加にもとづいた有志の会です。
武蔵野美術大学に所属する教職員や学生、卒業生有志の要望によって「会」の結成に至ったものです。